満足度:★★★★★★★★★☆
題名:すぐ死ぬんだから
作者:内館牧子
終活なんて一切しない。それより今を楽しまなきゃ。
78歳の忍ハナは、60代まではまったく身の回りをかまわなかった。だがある日、実年齢より上に見られて目が覚める。「人は中身よりまず外見を磨かねば」と。仲のいい夫と経営してきた酒屋は息子夫婦に譲っているが、問題は息子の嫁である。自分に手をかけず、貧乏くさくて人前に出せたものではない。それだけが不満の幸せな老後だ。ところが夫が倒れたことから、思いがけない裏を知ることになる――。
いやぁ、面白かったですね。
わたくしとしては、実生活では老人含めた鈍臭い人間にイライラするタイプです。そんな自分があきらかに老人が主人公の本を読むとは。
本当は「終わった人」から読みたかったのですが、直ぐに読めるのがコチラだったのですが、読んで正解。「終わった人」からの続編で無かったので、どれから読んでも良さそうですね。
好きな作者さんがまた1人増えました。さっそく違う作品も読んで見ましょう。
さて、まずは作者の技量が凄いんでしょうね。月曜日に読み始めてから火曜日にはもう終盤まで読んでました。仕事の合間でも読んで、野暮用無ければ2日で読み切ったでしょう。読み終えるのが早いイコール面白いという事実です。
すぐ死ぬ様な年齢の老人が主人公で、どんな物語が出来るのか内心不安でしたが、良い意味で裏切ってくれました。
まず、主人公の「ハナ」さんですが、面白いですね。というか考え方が自分と似てるからかも。
意地悪とかすっとぼけとか、そんな老人あるあるではありません。逆に若々しい姿を作ろうとする態度に共感しました。
ですが、なんでも言いたいことを口走る目の上たんこぶ老人かと思えば、そうでもありません。寧ろ息子の嫁とか色々我慢してたりもします。
なんというか、スピード感が読んでて良いんですよ。歯切れが良いというか、なんというか。例えば
「丸々ですよね」
失せろ。
「そうなんですよ~。……でね、」
みたいな、セリフの合間に内心が漏れるというか、素知らぬフリした態度を取ったり。これがリズミカルで、読み進めて苦にならないというより寧ろ読みやすい要因かもしれません。
あと、中だるみも無いし、大した事ない話題で引っ張るとかもなし。次々と出来事が出ては進んでいくので、スピード感があります。
不快なのは息子の嫁ですが、結局その嫁も手駒にしてしまうような、菩薩の感じが良いんですよ。これも作中で主人公のハナさんが変化していく過程の大事なとこ。
一貫して、衰退していく老人に抵抗する。けど若作りでは「イタイ老人」になるからと娘に言われ
「美しく老いる考え方」
つまり
「品格のある衰退」
を目指して行きます。
この辺りが物凄く共感できたことかなと。
極端に言えば、20歳過ぎても童顔だからといってセーラー服着てる女性はイタイんですよ。
ではなく、老人で誰も見てないからといって、楽で地味な服装をするのに抵抗しましょうよ。って考え。
40代50代の若さが失われたオッサンも、ジャージとかフリースとかを適当に着るのではなく、オシャレにも少しは気を使おうよ。
「それって、偽善じゃないの?」
これもテーマに出ます。老人含めナチュラルなのが良い。これも逃げだろって一蹴します。それに、どんなに偽善であっても最後まで偽善であればそれは善意になるのではないか?
化粧をした自分を貫き通せば、それは素顔になるのではなかろうか?
着飾っても中身は老人だろって、他の老人に思われても、着飾ってる姿しか見せなければそれが本質になるのではないかという考え。確かにそうだ。素顔なんて、見せなければ死ぬまで見られないんだから。
カツラだって、バレなければそれが本当の姿と思われて死ぬ。
よくよく考えさせられる作品だったと思いますね。
これは高齢者の方々に読んでもらって、考え方を改めてほしいですね。
無理しろって事ではなく、年相応でも明るく改善しましょうよ。ってことです。
頭の賢いかどうかは、あまり関係ないと思ってますが、賢い人の作品が面白かったという1例ですね。右脳が凄いというか。
こういう歳の取り方をした老人になれると良いなって思うけど、その年齢は、タイトルにもなってますが「すぐ死ぬんだから」って事が迫ってますからね。
達観するなら、理想の老人を目指すのではなく、今この一瞬を楽しもうってことでしょう。
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