満足度:★★★★★★★★★☆
著者:内館牧子
題名:今度生まれたら
ページ数:282ページ(あとがき含む)
あらすじ
70歳になった佐川夏江は、夫の寝顔を見ながらつぶやいた。
「今度生まれたら、この人とは結婚しない」
夫はエリートサラリーマンだったが、退職後は「蟻んこクラブ」という歩く会で楽しく余生を過ごしている。
2人の息子は独立して、別々の道を歩んでいる。
でも、実は娘がほしかった。
自分の人生を振り返ると、節目々々で下してきた選択は本当にこれでよかったのか。進学は、仕事は、それぞれ別の道があったのではないか。
やり直しのきかない年齢になって、夏江はそれでもやりたいことを始めようとあがく。
「終わった人」「すぐ死ぬんだから」に続く第3弾とでも言いましょうか、老後の主人公物語。
内館牧子さんもあとがきで(70)という年齢を自分が見た時、かなりショックだったらしいです。
本編でも触れられてますが(69)と(70)は違うんですと。
アラフィフのわたくしから見たらどっちもどっちと思うのですが、当の本人は全然違うらしいです。
確かに、60代は仕事終えた年齢で、70代はもう墓場へ向かうという少し強引ですが印象付けることもできますね。
内容の感想としては、読んでて途中何度もこれで終わりかって思うような、締めにかかってる気がしました。
しかし、残りページを見てもまだ全然あるし。
そう思いながら読み進めたら、次から次へと出来事があります。
ここら辺はもう、流石内館牧子さんだなって感動さえします。
無理やり引き延ばしとか、そんな出来事無いってとかじゃなく、ごく自然な流れで主人公の周りが騒がしくなり落ち着いたり。
それが捨て回とかではなく、最後に繋がって行く。
こういう構成が素晴らしいのでしょう、こちらも読むスピードが早いのは苦痛を感じないからでしょう。
高齢者が主人公なので高齢者にこそ読んでほしいのですが、わたくしが思うには読んでも
「これはフィクションだ」
で、まったく取り入れよとしないでしょうね。
アラフィフのわたくしが読んでて、高齢者に対して「わかる」って内容もたくさんありました。
高齢者が若い頃の事を自慢げに話す。
それはその時がピークだから自慢する。
つまり今がピークではなく落ち目である事を意味してるのですが、本人はそれに気付いていない。
ホントそれですよ。
高齢者の「昔は良かった、こうだった」という生産性の無い話は耐えられません。
高齢者同士で言い合ってれば良いんですよ。
若者に時代錯誤な価値観をぶつけても駄目なんですよね。
そういったところを上手く利用というか、じゃあ高齢者はどうすれば良いの? 死ぬの待つだけ?
そんな疑問を解消してくれます。
内館牧子さんの書く高齢者は、無理して若作りしようとしてるのでもなく、昔は良かったと過去にしがみついてもいません。
カッコイイんですよ。
勿論それは小説の話であって、目に見えるとやはり皺やシミが年齢を感じさせるかもしれません。
そこは置いといて、けどそれでも年齢に対する対処はしてますけどね。
それより、考えかた、立ち振る舞いがカッコイイなと思いました。
良くありそうな、邪魔扱いする若者をあっと言わせようとか、そんなチンプなもんじゃありません。
高齢者が高齢者としてどう生きていくのか。
仕事柄、高齢者と関わる機会が多いので、特に強く思いますね。
今回の主人公が若い頃、24歳までに結婚するのが当たり前で、25歳以降は売れ残りのクリスマスケーキ扱いの様だと。
寿退社後は専業主婦で、女性が仕事をする時代では無かったんですね。
今では信じられないって思えるような時代錯誤も、きちんと受け入れられます。
読んでて感情移入出来やすい作品。
あと、
……あとなんだろう。
ここまで書いて一旦中断してたからわからなくなってしまった笑
人生の指針とまでは言いませんが、若者も高齢者も何か感じるものがあれば良いのではないかな。
考え方、価値観の違い、もしくは若者が高齢者、その逆の立場の考えとかを主観的に取り入れやすいかと。
確かに高齢者は頑固で融通の効かない短気な人も多いです。
ですが、やがて自分もその高齢者になるんですよね。
そんな時、こういう作品を読んで少しでも若者からも好かれる高齢者になる準備や理想的な高齢者を思い描くのも良いかもしれませんねぇ。
───『終わった人』『すぐ死ぬんだから』(いずれも講談社)と同じくシニア世代が直面する問題に光を当てた一作だ。2022年にNHKでドラマ化され、夏江を松坂慶子さん、夫を風間杜夫さんが演じた───
……観たかったなー